← 記事一覧へ戻る

「ただの通訳」ではなぜ防げない? 床暖房メーカーの事例にみる、日韓ビジネスでパートナーが“二股”に走る本当の理由

■ 導入:「言葉が通じる」と「ビジネスが伝わる」は全く違う

「社内に韓国語が話せるスタッフがいるから安心だ」
「安い通訳を現地でお願いすれば大丈夫だ」
「翻訳ツールがあるから、意思疎通は問題ない」
そう考えて日韓取引に挑む日本企業は非常に多いです。しかし、どれだけ言葉を正しく通訳してやり取りを重ねていても、裏では「相手から一向に返信が来ない」「いつの間にか条件が変わっている」といった、決定的な不信感に直面するケースが後を絶ちません。
最近、韓国の床暖房の製造メーカーから「日本で新しく自社製品を売ってくれる、有力なパートナー(顧客)を紹介してほしい」という相談が入りました。恐らく弊社が他社工場の床暖房フィルムを日本に納品している事をホームぺージを見て連絡してきたと思います。
しかしその会社の背景を精査すると、そこにはすでに日本の「S-JET認証」まで取得し、社運を懸けてその床暖房を国内で一生懸命に販売している日本の正規パートナー企業が実在していたのです。
日本側からすればこれほどの裏切りはありません。しかし、韓国側の話をじっくり聞いてみると、そこには悪意以前に、「ただの通訳では、日本企業の努力や言葉の重みが1ミリも通じていなかった」という、コミュニケーションの致命的な破綻が隠されていました。

■ 日本の「慎重なプロセス」が、ただの通訳では「やる気のなさ」に直訳される
韓国メーカー側の本音は、「日本の今のパートナーは、とにかく確認ばかりで次に進むのかどうかが全く見えない。我が社としてはこれ以上待てないので、並行して別のルートを探さざるを得なかった」というものでした。
ここに、日韓ビジネスにおける「致命的なボタンの掛け違い」があります。
日本企業側は、日本の市場で安全に、かつ確実に売るために、妥協のない品質確認や認証の取得といった「極めて重いプロセス」を必死に進めていました。しかし、その間のやり取りにおいて、単に言葉を直訳するだけの「ただの通訳」しか間にいないと、日本側の「慎重で確実な動き」が、韓国側には単なる「引き延ばし」「やる気がない」としか翻訳されて伝わらないのです。
スピードを何よりも重視する韓国のビジネス文化において、相手に求めるのは「今、どれほどの熱量と具体的な進捗で動いているのか」というリアルタイムなニュアンスです。
「ただの通訳」は、文字の置き換えはできても、「日本側が今、どれほど人生を懸けて重いハードルを越えようとしているか、そのプロセスの価値と誠意」をビジネスの重要性として相手に翻訳して伝えることはできません。その結果、韓国側は勝手にしびれを切らし、「日本のパートナーが動かないから、生き残るために裏で次の種を蒔いておこう」と、二股工作に走ってしまうのです。

■ 結論:日韓ビジネスの成否を分けるのは「ビジネスの翻訳者」

日本企業がどれほど真面目に、多大なコストをかけて尽力していても、その「言葉の裏にある重み」が相手の文化に合わせたロジックで翻訳されていなければ、海外取引では何の意味も持ちません。
韓国企業も日本企業も輸出経験が浅く、INVOICEやPACKING LISTなどの知識すらない場合もあります。また日本側では輸入消費税や関税、またHSコードなども必要です。
ただ言葉が話せるだけの通訳や、社内の語学堪能なスタッフに頼り切る取引が最も危険なのは、こうした「お互いの正義や熱量のギャップ」から生じる違和感を察知し、未然に防ぐための駆け引きが一切できないからです。
日韓の民間ビジネスにおいて、お互いに異なる文化の「正義」と「スピード」で走っているからこそ、間に言葉の奥にある意図を繋ぐ者がいなければ、悪気のないまま関係は破綻に向かいます。
このような悲劇を防ぐためには、単に言葉を右から左へ流す通訳ではなく、「両国の商習慣を熟知し、双方の熱量とプロセスを正しく翻訳できるコーディネーター(ビジネスの翻訳者)」を必ず意思決定の間に介在させること。
これこそが、日本のメーカーが人生を懸けた投資を無駄にせず、お隣の巨大なマーケットで安全に、かつ長期的に取引を継続するための唯一の防衛策なのです。